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東京地方裁判所 昭和35年(タ)293号 判決 1963年5月27日

原告 石橋昇

右訴訟代理人弁護士 蒔田太郎

同 西口富美子

被告 石橋信子

右訴訟代理人弁護士 下光軍二

主文

原告(反訴被告)と被告(反訴原告)とを離婚する。

右当事者間の長女洋子(昭和三五年七月一二日生)の親権者を原告(反訴被告)と定める。

反訴被告は反訴原告に対し金二〇万円を支払え。訴訟費用はこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の負担、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

理由

一、離婚請求について

その方式及び趣旨により真正に成立した公文書と認められる甲第一号証に原、被告本人の供述(各一回)をあわせると、原被告は見合の上昭和三四年五月二七日結婚式をあげて事実上の夫婦生活に入り同年八月一一日婚姻届を了した。

原、被告には主文掲記の一子洋子が出生していることが認められる。

次に証人高橋基≪中略≫を綜合すると、

「原、被告は結婚後原告方に原告の母及び弟二名と同居し、原被告の夫婦仲もよく当初は家庭内も円満に暮していたが、結婚生活三ヶ月頃から原告の母は、長い間女手で原告等四子を育てて来て居り、且つ八年前より軽い脳の発作を起し手足も幾分不自由となつたせいもあつて、その性格もかなり烈しくなり被告に対し日常些細なことについて叱言を言つて不機嫌な態度に出、被告の健康状態について理解せず、被告も気が強い方であつた為これに言い返し、両者の間で口論が屡々交わされ、その間柄は日増しに悪くなつたこと、被告は胃が弱く前記の気苦労もあつて床につくことも屡々であつたが同年一〇月一六日の夕方、同年九月頃から原告方で日中預ることとなつた原告の姉の子を原告の母が守りをして、家に戻つて来た際、同女は昼間休んでいた被告が起きて子供を迎えに来ていた原告の姉と茶を飲んでいたのを見て憤慨し、顔色を変えて被告に対し人を困らせるために寝ていたのだろう出て行けと言い出し、被告も昇のところに嫁に来たのでこの家に嫁に来たのでないと言い返したことから、姉は母を制止したが、母と被告との間で大きな口論が交わされ、被告はその晩はそのまま休んだものの翌日の午后、母との同居を伴う今後の生活に嫌気がさし、睡眠薬を飲んだが原告に発見され、被告と被告の母の希望でそのまま実家に帰つたこと、

原告は被告との同居期間中を通して被告との仲は非常によく母と被告との争の際は常に被告に味方して同女をかばい屡々母を叱責するほどであつたが、長男で他の弟も独立できず母の体も健康でない状況であつた為母との別居も事実上困難であるとして別居後被告に対し、復帰方を懇請していたこと

その後原、被告は仲人の口添えもあつて翌三五年一月頃から原告の母に相談することなくアパートを借りて同棲したが、被告において同年二月右アパートを解約し、その前後を通して被告及びその両親は原告に対しその母の態度が我慢できないとして離婚を求め、原告及びその家族を烈しく非難したこともあつて次第に原被告双方の気持もはなれ、同年三月半ば頃原、被告間に離婚することの合意が成立したこと、翌四月四日原告の母が死亡するに至り、被告は原告に対し、結婚継続の障碍がなくなつたとして、今度は復帰方を求めたが、これまでの経緯と母が被告とのいさかいを苦にして死んだことに対する後悔もあつてこれをききいれなかつたこと、その後洋子が出生するに至り再び復帰方について両者間に協議がなされたけれども、一旦生じた両者間の感情の溝は深く調整されないまま現在では双方ともに離婚を希望していること、

以上の事実を認めることができ、前掲各供述中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を左右し得るに足る証拠はない。

右事実によれば原被告の婚姻は既に破綻に瀕し双方とも婚姻継続の意思を失い回復し難いものと認められるから民法第七七〇条第一項第五号に基く原、被告双方の請求は認容さるべきである。

二、親権者指定について、

原、被告間の子洋子については原、被告とも愛情をもち、自己の手許で養育することを熱望しているけれども原被告本人尋問の結果によれば洋子は昭和三五年一〇月一七日以来原告に引取られ、しばらくの間養護施設に預けられていたが現在は原告方で順調に育つていることが認められるので現在は現状を変更する要がないものと認められるから洋子の親権者を原告と定める。

三、慰藉料請求について

被告は原告の責に帰すべき事由により離婚の止むなきに至らしめられたから原告に慰藉料支払の義務があると主張するけれども前記認定の事実によれば原、被告の婚姻が破綻したのは原告の母の所為に根本の原因があつたことは明らかであるが、原告が右母の所為に加担又は放置していたものとは認め難くその他被告に対し特に不当な所為があつたものとは認め難く結局本件は原告の母と被告との争に端を発して原、被告とも婚姻同棲期間が短かかつた為、別居後復帰方の交渉期間の経過につれ、双方ともに婚姻継続の熱意を喪失したものであり、原告の母が死亡した際には既に原、被告の間は、破綻していたものと認めるを相当とするから、被告の主張は肯認し難く、従つて慰藉料請求は理由がない。

四、財産分与の請求について

原告は三伸証券株式会社に勤務し、現在合計月収六ないし七万円を得、肩書住所地所在の家屋(成立に争ない乙第二号証によれば昭和三五年度課税評価額は二一七、二〇〇円)につき持分の一を有しその他、公社債株式を二、三百万円相当有し、現在婚姻費用分担の審判に基いて一ヶ月七千円を送金していることは被告の自認するところであり、本件にあらわれた証拠によれば原被告の同棲期間は短く、その間夫婦の財産が被告の協力に基き特に殖えた事実は認められないけれども、離婚の際の財産分与は夫婦財産の実質的清算をその要素とするが尚離婚により弱者を直ちに生活の危険にさらさないようにとの扶養の意味も加味されるものと解するのを相当とするから、被告の年令、健康状態その他前記認定の諸般の事情を斟酌すると、原告は被告に対し財産分与として二〇万円を分与するを相当と認める。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋朝子)

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